東日本大震災の犠牲者と思われた白骨遺体が殺人事件の被害者だと判明したが戦国時代の他殺体だった上に休暇中の伊達政宗にやられた家臣だったっぽい話

東日本大震災の犠牲者と思われた白骨遺体が殺人事件の被害者だと判明したが戦国時代の他殺体だった上に休暇中の伊達政宗にやられた家臣だったっぽい話 メディア・マスコミ・報道

新聞記者になって2年目後半を迎えた201510月、深夜に突然県警本部に集められた。刑事部捜査1課の発表内容は宮城県七ヶ浜町での白骨遺体の発見。

遺体の頭には切りつけたような骨折痕があり、宮城県警は殺人事件も視野に捜査を開始する。

七ヶ浜町は名前の通り、7つの集落を持つ沿岸部の町。東日本大震災の津波でも被害を受け、発見場所は震災でダメージを受けた護岸の工事現場だった。

10年ほど前のものかもしれない。捜査1課幹部は時効が成立している可能性も付け足した。

発表を受け、その夜、そして翌日、他社の記者とともに現地に地取り(聞き込み)へ向かう。

しかし、現場周辺には民家は少ない。

10年くらい前に行方不明になった人っています?」

「わからんな~」

手がかりがなさすぎて、続報が出ることもなく事件は忘れられていく。

電話

2ヶ月後、年明け早々に七ヶ浜町を管轄する塩釜警察署の刑事に呼び出された。

ネタ元だったその刑事は管内で発生した事件の耳打ちをしてくれていたが、直接呼び出されるのは珍しい。それも白昼堂々だ。呼び出してきたのは管内にある博物館の駐車場。

時間になっても現れず、電話が鳴る。

「忙しくて行けなくなったので電話で伝える」

「それなら最初から電話してくださいよ」

喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

「ガキの頃よく博物館に来ててな。なかなかいいぞ」

「本題はなんすか」

「うちの管内で見つかった骨な。放射性炭素年代測定に出してるってよ」

「放射性炭素年代測定?つまり、時効成立ですか?」

「それどころじゃないかもしれないな。なんせ考古学で使う古い骨の検査だ」

なるほど、それが本当なら多少のネタになるかもしれないな。頭の中で予定稿を考える。沈黙を破るように刑事が続けた。

「事件は、ロジックじゃねえからな。現場をただ見てるだけじゃ2流だぞ。大事なもん忘れると出れない迷宮に迷い込むぞ」

わかってますって。そう返しつつ車内でタバコをくわえる。

「まぁ俺が話せるのはそんくらいだ。せっかくきたんだ。博物館見てけよ」

今度改めて来ますよ。適当に流しながら電話を切った。

鑑取り

放射性炭素測定。調べてみると国内で検査ができる研究機関は2カ所だった。電話してみると、そのうち片方がヒットした。

「結果は自分たちは言えないから、県警に聞いてくれ」

宮城県警が放射性炭素測定に遺骨を出している。それだけわかれば十分だ。

その夜、捜査1課幹部のもとへ夜回りをかけた。

「お疲れ様です。ちょっといいですか」

自宅前で声をかけると1課幹部は露骨に嫌そうな顔をした。秋ごろから事件が続き、捜査1課と記者クラブの関係はあまりよくなかった。その中でも、1課が発表していない情報を何度も特ダネとして書き続けている俺はとりわけ邪険にされていた。

「七ヶ浜の骨、なんか検査出されてますよね」

表情が変わった。苛立ちと怒りをにじませながら「俺は知らん」とだけ返して自宅へ入っていく。間違ってはいない。感触に手応えはあったがこれを記事にするには疑問が残る。

まずは放射性炭素年代測定の結果。それ以上に気になったことは「なぜ骨はたった10年前の新しいものと誤認されたのか」そして「なぜ古いものだと気づいて年代測定するに至ったのか」。

欲しい情報は整理できた。さて、測定結果がわかる人となると…。

夜回り

「お前が来るのは珍しいな」

足を止めてタバコを取り出しているのは県警幹部。ネタ元で一番階級が高く、俺の切り札でもある人だ。

「たまには直接お会いしたくて。七ヶ浜の遺骨の件です」

単刀直入に切り出すも、県警幹部は表情を変えない。

「いろいろ嗅ぎ回ってるのは聞いてる。なにが気になっているのか?」

「年代測定の結果はどうだったんですか」

「測定結果は室町、戦国、江戸まぁそんなところだ」

室町想像以上だった。

「なんで古いものだったと気づいたんですか?そしてなんで県警はそんな昔の骨を最近のものだと思ったんですか?」

「肩の骨がな、すり減っていた」

肩の骨がすり減る?そんなことあるだろうか。一瞬間をおいて答えが浮かんだ。

「飛脚ですか?」

「発見された七ヶ浜は、どういう場所だ?」

どういう場所?関係あるのか?

「さぁ、おまえの疑問はすべて答えてやったぞ。帰れ帰れ」

骨が最近のものだと判断された理由に答えてもらっていない。いや、今の会話のどこかに答えがあったのだろうか。

真相

県警記者クラブの椅子にもたれかかりながら思考を巡らせる。七ヶ浜はどういう場所か。町のサイトは眺めた。東北最小の町、震災で被災、海沿いに7つの集落があるから七ヶ浜、古くは避暑地だった、町内には貝塚がある

署の刑事の言葉を思い出す。現場をただ見てるだけじゃ2流。大事なもん忘れると出れない迷宮に迷い込むぞ。抽象的なこと言いやがって。だいたいあんなところまで呼び出して自分は来なかったくせに

「博物館の駐車場に、来なかった?」

本当に来れなかったのか?わざとだとしたら、なぜ?博物館

「貝塚だ」

すぐに博物館に電話をかける。予想は的中だった。近くの貝塚から溶け出したカルシウムが酸性土壌を中和させることで、骨の分解が遅くなる。保存状態がよかったため、検視官や解剖医でも見間違った。

だから刑事はあそこに呼び出したのだ。そして、県警幹部が突然現場がどういう場所か聞いたのはこれが理由だった。

「揃いも揃って回りくどいことして

いや、貝塚って伝えたいならそう言えばよかったのでは?

もう一つ疑問が浮かんだ。幹部はなぜ飛脚に答えなかった?

もう一度町のサイトに目を落とす。見落としは、すぐに見つかった。

裏取り

「またお前か」

捜査1課幹部の自宅前。話しかける前に苦言を呈された。

「時代は室町から江戸ですね。書こうと思います」

「知らない」

書くな、ではなく知らない。裏取りすらさせたくないらしい。1課幹部は自宅に入ろうと足を踏み出す。

「御殿崎伊達政宗公

足を止めた。御殿崎は七ヶ浜にある、かつて仙台藩主・伊達政宗の避暑地だった場所だ。

「駕籠持ち、ですかね」

磨り減った肩の骨、切りつけられたような頭蓋骨の傷痕、御殿崎大名の駕籠持ちを推測するには十分だった。

「それは憶測だ」

「でも地検への書類には出てますよね?」

「出していない。それは

1課幹部が言いかけて止める。

「すみません、カマかけました。地検に捜査結果は送ったんですね」

刑事

記事は県内版ではなく社会面に掲載された。他社も追いかけ、社内賞ももらった。

塩釜警察署管内の寿司屋。到着から10分ほどして刑事が座る。

「よう特ダネ記者」

記事には放射性炭素年代測定の結果、町内の貝塚の影響で骨の保存状態がよかった可能性があることは盛り込んだが、肩の骨のすり減りと、被害者の身元についての考察は書かなかった。たどり着いた結論を話した上で、聞いてみた。

「どこまで知ってたんですか?」

「そんなの、捜査上でも関係なければおまえらも記事にできない与太話だ」

「言ってくれたらよかったのに。どうせ被害者は飛脚か伊達政宗の駕籠持ちなんて書けませんよ」

「骨が古いとわかったら測定方法がどうのこうの、記事にするために必要なパーツは何なのか、そればっか考えただろ」

俺の反応を待たずに刑事は続けた。

「現場を知る、仏さんのことを考える、そういうのを考えて欲しかった、じゃだめか?」

まったくこの人はそう思うと少し笑ってしまった。

「だめですね。僕は記者なので、字にしてナンボです」

それを聞き、刑事もお猪口を止めて笑った。

東日本大震災の犠牲者と思われた白骨遺体が殺人事件の被害者だと判明したが戦国時代の他殺体だった上に休暇中の伊達政宗にやられた家臣だったっぽい話

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