“取材源の秘匿”を踏みにじった「賭け麻雀問題」を考える。報道機関の記者として許されざる裏切りだと思う。

"取材源の秘匿"を踏みにじった「賭け麻雀問題」を考える。報道機関の記者として許されざる裏切りだと思う。 メディア・マスコミ・報道

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言中に産経新聞記者や朝日新聞社員と”賭け麻雀”をしていたとする週刊誌報道を受け、東京高検の黒川弘務検事長が辞任した。

賭け麻雀が賭博罪にあたるか、ハイヤーでの送迎が国家公務員倫理規程に抵触するかなどといった問題はここでは置いておきます。検察庁法改正云々も。

あまり指摘されていないのであえて書かせてもらいます。

この問題は報道機関から取材対象者へのもっとも許されざる裏切りだと考えています。事件記者の特ダネを支えるネタ元との暗黙の了解を破る行為で、報道機関にあるまじき失態です。

部外者が口を挟むな、いきなりお前は誰やねん、と思われる方もいるかもしれません。詳細は書きませんが、私は元記者でこの件についても少しだけ関係者です。言いたいことや暴露したい話もありますが、ここでは必要な内容だけ記させていただきます。

報道機関とネタ元

報道機関は政府や各省庁、自治体、警察や検察が発表した内容だけを報じていてはダメです。発表された情報は真実なのか見極め、発表していない情報も取材・報道することで行政機関が都合のいい情報だけを流すのを防ぎます。また、そうした取材力を持つことは情報が捻じ曲げられないための抑止力でもあります。

そのためには、取材先に発表されていない情報を教えてくれる情報源が必要です。これが”ネタ元”です。

当然、ネタ元は内密に情報を教えてくれているので報道では

・政府関係者によると
・捜査関係者への取材で分かった

のようにぼかして表記されるのがほとんどです。

「どれだけ取材先に食い込めるか」は記者の実力の指標とされます。時代が変わって、特ダネ競争は昔ほど過激ではありませんが、ネタ取り屋が一番評価されるのは今も変わりません。

新聞記者、とりわけ警察や検察を担当する事件記者にとって、ネタを取れるかどうかが最重要視されます。

私は新聞記者だった5年半ずっと事件担当でした。地方に配属された1年目から、警察官のネタ元を作るためにやれることは思いつく限りなんでもやりました。

警察署に通いつめるところからスタートして、なんとか飲みに誘おうとし、電話番号を聞き出そうとする。たった3秒話すため、真冬に警察官の自宅前で8時間立ち続ける。釣りでもドラマでもアイドルでも相手の趣味はすべて覚える。奥さんの誕生日や結婚記念日にお祝いを持って行ったり、子供の習い事の送迎をしたり。冬は早朝から雪かきをして出勤を見送り、初夏には草むしりに通う。

幸運にも、地方でも東京でも、苦しい時に助けてくれる人、心から尊敬できる人、一緒にメシに行って楽しい人など、多くのネタ元に恵まれました。。

一方で、取材先にとって記者と付き合うことは大きなリスクがあります。記者に情報を渡していることが判明すれば、守秘義務違反になり得ます。なんらかの利益を受け取っていれば大問題になりかねません。黒川検事長のように辞職で追い込まれることだってありえます。組織内で左遷された例もあります。

金銭面での利益のない個人間の関係で情報をもらっているにせよ、飲み代を経費で落としたり送り迎えにハイヤーを出したりと金銭的メリットを提供するにせよ、記者とネタ元の関係は「こいつと親しくしても大丈夫。こいつは俺のことを誰にも話さない」という信用の上で成立するのです。

矜持

私は自分の一番のネタ元は常に伏せ続けてきました。退職の際にも引き継いでいません。

入社1年目、県警担当になって数ヶ月した頃、初めて捜査員からサシ飲みに誘われました。うれしくなってデスクに報告すると叱られました。

「ネタ元は隠すもんだ。その人はお前を信用して飲みに誘った。お前が俺にそのことを共有することは裏切りだぞ」

もちろん、事件で特ダネを書く際には匿名の”捜査関係者”が誰なのか気になります。聞いてくる上司もいます。

しかし、私の最初のデスクは「言わなくてもいい。お前が絶対に信用できる相手から聞いたと言うなら一緒に飛び降りてやる」と。2人目のデスクも、私がどんなにきわどいネタを持ってきても、一度も私にネタ元を聞きませんでした。自分に情報をくれる人のことは死んでも守れ。2人のデスクから、記者として大切な矜持を学びました。

「自分は警視庁の幹部からこんなによくしてもらってるんだぞ」と社内で自慢したい時もぐっと堪えます。ネタ元に付き合って深酒して原稿を出すのが遅れようと言い訳はしません。仲が良いだけでは意味がありません。結果として誇っていいのは取ってきた事件のネタだけです。

産経新聞関係者“と裏切り

週刊文春には、黒川氏の麻雀の情報を提供したのは“産経新聞関係者と表記されています。

産経新聞の記者と個人的な麻雀の約束をしたら、”産経新聞関係者”から週刊文春にリークされる。こんな不義理はありません。記者のリスク管理の甘さの結果です。

P担(東京地検担当)のズブズブっぷりは警視庁担当の私でも知っていました。裁判担当やキャップはハイヤーを使いませんよね。そして送迎のために呼んだハイヤーを深夜まで待たせて、部下の名前で伝票を切ったりしていませんよね?

検事長を自宅に招いて麻雀に興じるほど昵懇の間柄。素晴らしいですね。検察は警察以上にガードが固い組織です。そこまでの関係性を構築してきたことは素直に尊敬します。惜しむらくは大切なネタ元との会合をなぜそんなにも軽々しく広めてしまったのか。相手が話題の渦中にいて、立場のある人間なら尚更慎重になるべき場面です。

報道機関として事件記者として、破ってはいけない暗黙の了解を破ったのです。検察庁の検事からすると、社内で予定を共有され、あまつさえそれが週刊誌にリークされるような会社とは今後付き合えません。私なら情けなくて記者を続けられません。

検察庁に限った問題ではありません。取材先は何があっても守る。「取材源の秘匿」こそ、マスコミが取材先に食い込み、ネタ元からネタを取るための信用を下支えするものです。この前提が崩れるのなら、怖くて報道機関になにも話せなくなります。

確かに今回、黒川氏は捜査状況を漏らしてはいません。今回は取材ではないプライベートの出来事かもしれません。しかし、取材対象者と付き合うのなら、相手のことは守るべきではないでしょうか。取材源の秘匿は記事にする際だけでなく、普段の付き合いの中でも必要な最低限の所作です。産経新聞は「取材源の秘匿の原則を守りつつ適切に対処します」とコメントを出していますが、すでに取材源を守れていません。

そんな初歩的なこともできないような報道機関はもういらないのではないでしょうか。

"取材源の秘匿"を踏みにじった「賭け麻雀問題」を考える。報道機関の記者として許されざる裏切りだと思う。

コメント

  1. 元記者 より:

    西山記者事件で最高裁判決が確定したように、賭け麻雀という違法行為しての取材は不法行為で正当な取材ではありません。
    それを内部告発しただけです。
    おそらく最初は産経上層部に訴えたのでしょう。でも無視されたから文春にリーク、しかも「産経関係者から、と書いて良い」と付けて。
    そうでないと、今まで絶対に取材源を守ってきた文春が書くはずありません。

  2. […] […]

  3. 大沢 哲 より:

    黒川氏を週刊文春に売った産経の関係者に感謝します。
    おかげで、検察のズブズブ関係が明るみにでました。
    出来れば検察関係者の内部告発であって欲しかった。
    森友・甘利・・キリがない。
    森友で自殺した方がいる、検察関係者は知らんぷり。
    検察よ 「恥を知れ」

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